雨男のホコリ/オノテツ

雨男というのは、たとえば干ばつの激しい地域などでは立派な職業として成り立つと思われるが、医者や弁護士のように学習してスキルを身につけるわけではなく、むしろ生まれながらにして具わった才能といえるから、その資格の判定がなかなか難しい。
だが、霊媒師などと同じく血は遺伝するものと考えられるから、雨男の息子もまた同様に雨男の道を歩むというのが世の摂理であろう。


先日、息子が生まれたが、生まれる直前から雷が激しく鳴り始めた。
その後は同伴出勤ならぬ同伴出産ということで、正式には「立ち会い」などと物々しい言い方をするらしいが、いずれにせよ妊婦とともに分娩室に入れられていたから、外の様子は皆目わからない。
が、生まれたのを見届けてから部屋を出ると、ザアザアと小気味よい音を立てて大粒の雨が降っていた。
少し前はもっとひどい土砂降りだったらしい。
ちょうど、ぶっとい臍の緒を体にグルグルと巻きつけながら出てきた頃だろうか。
程なくして小雨になり、やがて止んだから、いわゆる通り雨というやつだが、よりにもよってその時間にその場所を通るあたり、生まれながらにして具わった才能とやらを疑ってみたくなるわけである。


その雨男予備軍は、これまで大勢の何かしらの予備軍たちとともに大部屋に寝かされていたのだが、本日をもって目出度く退去命令がくだり、同世代の仲間がひとりもいないというまったくのアウェイな環境へと移された。
移された当初はさすがにはじめての場所で緊張していたのか、借りてきたネコのように大人しくしていたが、しょせんはネコでも大人でもない不確かな存在だから、慣れない環境にもすぐに順応し、寝たと思ったらすぐに泣き出したりとワガモノ顔で振舞いはじめた。
飲んでは出すの繰り返しで、大地を潤す以前に自分の股間が水浸しになる始末だ。
今のところ、ホームの我々が一方的に振り回されている感じだが、こちらも長年雨男をやってきて、幾多の汚れを水に流してきたから、排泄物にはめっぽう強い。
いずれ形勢は逆転することだろう。