昭和/オノテツ

昨今では「昭和」がブームらしいが、昭和といえば前半は戦争に明け暮れ、後半は極端な経済成長のあげくバブルとともにはじけた感があり、あまりいい印象がもてない。
昔を懐かしむのは人の勝手だが、その時代時代でいい面も悪い面も両方あるのだから、当時の生活や習慣を美化するのはやめて、遺されたモノだけを愛でていればいいと思う。


というわけで、ひょんなことから東急東横線綱島駅にある「綱島温泉東京園」に行ってきたのだが、まさに時が止まったような至福の空間で胸踊らされた。
カラフルなタイルで彩られたモダンな壁面と、畳敷きのだだっ広い休憩所が不釣合いで、なんとも味わい深い。
大広間ではカラオケがはじまり、妖艶に歌うおばさんの前で、初老のおじさんがひとり優雅に舞い踊る。
くつろぐジジババたちの顔はどれもこれも油断し切っていて、こそ泥でさえ何も盗らずにコソっと帰るくらいに平和だ。
公衆浴場だから善人悪人の区別もなく、皆ハダカでワッハッハ、といったところなのだろう。
風呂の湯は黒いが、決して汚れているわけではない。


湯上りには生ビールと枝豆のセットをたのみ、ついでにサンマの蒲焼の缶詰をひとつもらって、休憩所の片隅でつつく。
しめて500円なり。
入湯料の420円を足しても1000円に満たない。
言うまでもなく、ここは昭和をイメージして作られた娯楽施設ではなく、ましてやイメージ映像でもない。
現存するモノなのである。
モノとともにいるだけで、あとはその人がその人なりのイメージを膨らますことができる。
たとえば『Always○○○』なんかを観るよりはるかに安い料金で、はるかに有意義な時間をすごせると思う。