ジョイ/オノテツ

歯医者に通っている。
舌で触ると表面がガリガリしているから、詰め物が取れたと思い診てもらった。
ところが、実は詰め物はしっかりと残っていて、周りの歯が割れてボロボロ崩れ落ちていたのだった。
詰め物の奥で虫歯が進行し、歯が弱っていたらしい。


今まで通っていた歯医者をやめて、ネットで評判のよい歯医者に鞍替えしてみた。
ホームページによると、中年の男性の歯科医が丁寧に説明してくれて、しかも最新の設備を使いながら治療を進めてくれるらしい。
なんでも痛みをやわらげるさまざまな工夫がなされているとのことである。
さっそく予約をとって行ってみると、それほど待たされずに治療室に案内された。
現れたのは、白衣を着たおねえさん。
まだ若く、なかなかの美人だから、きっと歯科衛生士か歯科助手だろうと思った。


ところが、いくつか質問された後、歯茎に麻酔の注射をうたれ、気がつくと治療がはじまっていた。
キーンという不快な音とともに、上あごに激しい振動が伝わる。
ちょっとアンタ、いったい何の資格があってそんなことを、と問いただしたいが、大口を開けているから何も言えない。
しばらくドリルで削ったと思ったら、次には箸よりも重いものなど持ったことがないというような細腕で、詰め物をガシガシと力任せに引っ張りはじめた。
麻酔のおかげで痛みはしないが、それでも頭蓋骨まで揺さぶられるような衝撃だ。
よほど深いところまで達しているか。
それより、この美女は本当に歯科医なのか。
ネットの情報はワナで、オレは単なる実験台ではないのか。


不安が頂点に達したころ、耳もとで「今日はこれで終わりです」と甘い声がした。
聞くと、詰め物をひっぺがすだけでなく、その奥にある虫歯の治療まで済ませていたそうである。
なかなかの手際のよさに驚かされた。
手際がよくて、しかも美人とくれば、人気が出るのも当然であろうと深く納得する。


そんなこんなで、治療中の不安はどこへやら、晴れ晴れとした気分になって仕事場へと向かった。
が、仕事を始めて2時間ほどすると、麻酔が切れたのか徐々に歯茎が痛み出してきた。
治療した箇所が神経にまで達しているから痛んで当然なのだが、なんとなくすべてがダイジョウブと錯覚していたのである。
手際のいい美女だからといって油断はできないのだと、深く思い知らされたしだい。