第九/オノテツ

朝から事務所に行き、午前中にひとつ、午後からひとつ仕事を仕上げて、3時には手持ち分が終了した。
次の仕事が夜11時から始まるから、その前に少し寝ておこうと思い家に戻るが、事務所から電話が入り、至急楽譜の校正をやってほしいとのことである。
やってもいいが、やると寝る暇がなくなる。
だから断ったほうが賢明と思われたが、1ページだからすぐ終わるとの甘い言葉に惑わされ、結局引き受けることになった。


引き受けてみると、たしかに楽譜は1ページだけだが、それに付随する質問事項がいくつかあり、たしかな答えを得るためには、実際の音源を聴くか、オリジナルの譜面に目を通さなければならない。
しかし、近所の図書館に行き、レコード屋の楽譜コーナーに行き、隣町の図書館にも足をのばしてみたが、探している楽譜も音源も見つからない。
探しているのはベートーベンのいわゆる「第九」で、時期が時期だけに貸し出し中だったり買い占められたりするのだろう。
仕方がないから、普段まず読まないような研究書もどきにも目を通し、どうにか説明可能な状態にまで調べ上げた。


家に戻るともう9時近い。
依頼先に電話して、調べた結果を報告すると、間もなく出掛ける時間となった。
このまま翌朝までカタログの校正である。
某大手印刷会社の校正ルームに缶詰となり、校正部屋らしからぬ薄明かりのもと作業を行う。
終了はいつになるかわからないが、できれば午前のうちには解放されたいものである。