万引き考/コジマ

最近ネットで話題の、このニュース。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2007100300697

ブログやらmixiで色んな人の意見を読んだ。
万引きをしたオヤジは死んで当然」という意見が思いの他多くて驚き、暗澹たる気持ちに。
又、「店長よくやった」という意見にも、大いに違和感を覚える。
そして「この人殺し野郎」と言う意見にも同意出来ない。

このニュースを読むと、俺には2人とも被害者としか思えない。
勿論、片や盗人片や人殺しな訳であり、刑法上は両方とも犯罪加害者な訳でそれを無視しろと言うつもりは毛頭無いのだが、それにしても気の毒すぎないか?

たかが126円ぽっちで殺された人も勿論気の毒だが、これから一生「自分は人殺し」と思って生きていかなければいけないコンビニ店長も気の毒すぎる。
ネットで別のニュースソースを見たところ、この店長は万引き犯の死を知り自分で警察に出頭したらしい(こまかいいきさつはわからないが)。
どれだけひどい暴力をふるったかは知らないが、少なくとも「万引き犯は殺して良し」とか思っているような人間では無いのではないか、フツーの奴なんじゃないかと思う。

又、上記ニュースの万引き犯が「居酒屋に居た」事を問題視して「酒呑む金があるくせに遊び半分で万引きするような奴は死ね」みたいな意見も有ったが、ニュース検索したところ、件の居酒屋経営者は死んだ人と知人であり、また死んだ人は万引で捕まった際、所持金はゼロだったそうだ。
「万引きといえども盗みは盗み」とモラリスト諸君は言うだろうが、しかしやはり、俺は喰うに困って盗みをする人を責める気にはなれない。
なぜなら、俺も昔、喰う金が無くて米5kgを万引きした事があるからだ。
浪人時代、一人暮らしをはじめてすぐ位の時だったが、あの頃は兎に角金がなく、散々腹を減らしたあげくに「捕まっても留置所で飯が食えるからいいや」位のやけっぱちな気持ちでギッたのだった(この話を人にしたところ「パンを万引きすればすぐ喰えたのに」と言われ、「ああそうか」と思った。どんだけ和食党なんだ俺は)。

あの時代の俺の貧乏は、まあ言ってみれば親に泣きつけばなんとかなる程度のハナクソみてえなもんだったけど、「51歳の無職で現金ゼロ」の人の貧乏はちょっと洒落にならない。

「だからって盗んで良いのか?」と言われたら、「いや、それは良くないけど・・・」と口ごもりながら答えるしかないが、一つ言えるのは、俺がもし51歳で無職で腹を減らしてでも金を持っていなかったら、やっぱり迷わずに食い物を盗むだろうと言う事だ。

それにしても、万引きに対しては、ちょっと複雑な思いだ。

前述のように俺もギった事が有るのだが、古本屋勤務ではさんざん万引きに悩まされもしたし、しばしば捕まえる事も有ったからだ。
確かに、「金払や文句ねえんだろ」みたいなことをほざく逆切れ小僧などには暴力衝動を抑えるのに苦労したものだが、しかしやはり命で購う様な罪かというと、それは全然違うと思う。

「小売店経営者は命がけで商売をしているのだ、罪はすべて万引き犯にある」と言う意見もあった。
たしかにバイトの俺と経営者では、万引きに対する態度のシビアさには差が出ると思う。
うちの亡祖父はレコード店を経営しており、やはり万引きには悩まされていた。
レコードやCD、書籍と言うのは、販売システム上儲けが凄く少ない。
だからもし1枚ギられたら、それこそ相当な数の枚数を売らないと大赤字なのだ。
しかし、「万引きは死ね」みたいな事は絶対に言わなかった。
うちのじいさんが特別甘かったからじゃない、と思う。
いや、むしろケチだった。
つまりそれは、当時の世相として「万引き犯は死んで良し」という価値観が有り得なかったからだ。

昨今、犯罪の凶悪化を問題にするマスコミが多いが、この酷薄な世相が大きく影響しているんじゃねえのか、と思う。
モラリストが多いのは結構毛だらけな事だと思うが、皆そんなに人を責める程に品行方正なんだろうか。

「米泥棒の癖しやがって偉そうな事言ってんじゃねえよ」
その通り、俺は米泥棒だ。
恥ずかしい事だと思う。
振り返ってみれば、生まれてこのかた恥ずかしい過去で一杯だ。
でも、だからこそこの2人を責める気にはなれないのだ。