本屋/オノテツ

一昨日の夜、近所の本屋で本を買い、ついうっかり金を払ってしまったがために、財布の中身に気を取られて電話を受け損なった。
それはある麗人からの飲みのお誘いで、つまり本を買ったがために絶好の機会を逸したわけだが、かわりに今日、U君のヴィオラの発表会があるから一緒に行きましょうとの代替案を示され、二つ返事で受け入れた。
二人でしっぽり飲むはずが本屋に邪魔をされ、挙句の果てにはヴィオラの発表会に化けやがったわけだが、会場がやはり近所の公立のホールで、小学校のときに合唱大会をやったという、あまり愉快とはいえない思い出があるものの、なんでも最近リニューアルしたとのことで、見違えるようにキレイになったと聞くから、この目で確かめるという意味もあって遠慮なくお邪魔することにしたのだ。
もちろんホールにお邪魔するだけでなく、U君の演奏もしっかり最前列で見届けて邪魔するハラヅモリである。


U君の出演時間に合わせて最寄駅で待ち合わせると、オレを誘ってくれた当の麗人だけでなく、コジマくんをはじめ馴染みの顔がずらり並んでいる。
唯一の地元民であるオレが引率の先生役だ。
天候もすこぶる良く、絶好の遠足日和である。
歩き始めて間もなく、「先生、ビールが飲みたい」と後方からコジマ君の低音が響いた。
しょうがないからコンビニに立ち寄り、かわいい生徒たちにめいめいビールを買わせる。


ゲップでラップをしながら会場に着くと、なるほどウワサに聞いたとおり立派な建物でビックリさせられる。
黒川コンチキショウか、安藤タダのオスが設計したかと見紛うばかりのモダンで贅沢なつくりである。
入り口付近には、気が向けば誰でも食い逃げができそうなオープンスタイルの洒落たカフェテラス。
この街はいったいいつからこんなに都会的になったのか。
駅前では相変わらず焼鳥屋がもくもくと煙を上げているというのに。


ところで発表会というものは、演奏する人はもちろんのこと、聴く側をも緊張させる。
この緊張の応酬が、会場全体にある種の共犯関係にも似た一体感を生み出す。
かどうかは知らないが、発表会にはいつだって新鮮な驚きがあり、また驚くほどの斬新さがそなわっているのは確かだ。
本気にマジで真剣に聴かないと、そのエッセンスを取り逃がしてしまう。
だから、耳に穴が開くほどにじっくり聴くことにしている。
ついでに口もぽっかりと開いてることがあるが、たとえヨダレが垂れていても、それほど真剣なんだと理解してほしい。


そんなわけで、今回もまたあまりに真剣に聴きすぎたからすっかり疲れてしまい、終わったらとっとと帰ろうかと思っていたのだが、コジマ君をはじめ皆さんは飲みに行きたそうな顔をしているから、仕方なく一杯だけつき合うことにした。
駅の近くの居酒屋に入り、まずは一杯だけ皆につき合い、そのあと何杯かはオレにつき合ってもらう。
気がつくと焼酎の空瓶が何本も転がっていて、誰も彼もまともに歩けなくなっている。
まともに歩けないから、電車に乗って別の街の別の店で二次会をすることにした。
リハを終えて飲んでいたH君たち一行に合流し、そこで電車がなくなるまで飲んで、結局タクシーで家に帰った。


こんな具合に本屋で金を払うとロクなことにならないから困る。
しかし、本というものはいつだってついウッカリ買ってしまうから、こればかりはどうにも防ぎようがない。
本屋と居酒屋のない世界に行けばマチガイは犯さないのかもしれないが、そんなところで生きていくくらいなら死んだほうがマシだ。
と、酔いから醒めたアタマで考えるのだが、そんなこと酔っ払ってるときにはどうでもいい話である。



そして明日からはコジマ君の日記。