物好き/オノテツ

今年初めてコジマ家に行き、家主のチグラーシャさんと飼い主のコジマくんに会ったのだが、二人とも相変わらず変わりがなくて変な安堵感をおぼえる。
ただ、チグラーシャは一段と食いしんぼうになったようで、人目をはばからずコジマくんが切り捨てた紙片をバリバリ食い続けているのが気がかりであった。
まったくヤギみたいなウサギである。
その迫力ある食いっぷりに気圧されて、つい飼い主に「あんなに紙ばかり食っててカラダに悪くないのか?」と聞いてしまったが、日ごろからギターのシールドをガリガリかじっているくらいだから、紙はカラダに悪いからやめなと忠告したところで聞く耳を持たないだろう。
何のためにでかい耳してんだかと嫌味のひとつも言いたくなるが、あれは聞くためのものじゃなくて空を飛ぶためのものだから致しかたない。


話は変わるが、仕事柄ほとんど本を読まないくせに書評にだけはよく目を通す。
今夜も家に帰って夕刊を開き、文化面の文芸コーナーを読んでいると、知り合いの翻訳家が訳した小説が取り上げられておりオヨヨと思った。
ブルースインターアクションズという出版社から出た『ピアニストは二度死ぬ』という作品で、書評家の鴻巣友季子さんいわく「まさに人を食ったような擬態小説」とのこと。
無名のまま死んだ音楽家の全集に付されたライナーノーツ、という凝ったスタイルの小説だが、楽曲解説のはずがいつしか故人の伝記となり、やがて暴露本になり、最後はミステリーになってしまうという、いわば終わりなきメタモルフォーゼ・ノベル状態らしい。
いや、終わりのひとつや二つくらいはあるだろ状態なのかもしれないが、いずれにせよなかなか興味深い内容なので、是非皆さんに読んでいただき判断を仰ぎたい。
なにしろ「本作の紹介に踏み切った版元と訳者に声援を送りたい」と書かれているほどだから、よっぽど妙ちくりんな作品に違いないのである。
そういう作品を出したり訳したり取り上げたりする物好きがいるというのは何とも喜ばしいことであり、オレも書評を読んだだけで満足せずに、たまにはちゃんと作品を読もうと反省した次第だ。


新年早々反省させられるというのは、やはりあんまり気分がよろしくない。