福祉の貧困/コジマ

累犯障害者」(山本譲司/新潮社)読了。
いや、参った。
只本を読んだだけで、ここまで腹が立ったのは久しぶりだ。

我が国の福祉とか人権意識の貧困さは知っていたつもりでいたが、これほどまでに劣悪なものだとは思わなかった。
俺は何人か障害を持つ人を知っていて、彼等やその家族の困窮ぶり(一時期のカンガワと俺も含めて)を知っていたが、この本を読むと幸せとまではいかないまでも随分とマシな生活だったんだなと思ってしまう。

山本によると、04年の新受刑者(3万2090人)のうち、三割弱の者が知的障害者として認知されるレベルの人間だと言う。
これだけ読むと「知的障害者は犯罪的傾向が強い」という誤解を受けそうだが(確かに一部重大犯罪があるには有るのだが、山本によるとこれらも福祉行政がまともに働いていたら防げた種類のものが多いらしく、文中にそれらの例が記述されている)、そのほとんどが「食い逃げしたから」とか「弁当一つ万引きしたから」だとか、健常者だったら起訴もされないような理由で実刑判決を受けて獄に落ちているのだ。
そんな「レ・ミゼラブル」みたいな話が、現在の我が国で行われていようとは!

そういう食い逃げだの万引きだのも、学生や主婦がスリルを求めてやるような質のものではなく「腹が減ったから」だ。
気持ちは分かるぞ、俺も浪人時代、捕まるの覚悟で米を万引きした事があるから(まあ俺の場合、生活費で絵の具買ってしまって素寒貧になったというだけで、要するに浪人なんかしてないで働けばいいじゃんってヌルイ話なんだけど)。
身寄りもなく、仕事にもつけず、福祉の網からもこぼれてしまった文無しが飯を食う方法なんて、残飯漁るか盗みか食い逃げしかねえだろ(じゃなかったら餓死な。先日、北九州で一人暮らしの障害者が生活保護の申請をはねられて、ミイラになって発見されたのは記憶に新しい)。俺が彼等の立場だったら絶対万引きとか食い逃げやるよ、間違い無く。

世間では「キチガイや知恵遅れは犯罪を犯しても罪にならない」という誤解が流布しているが、実際には健常者以上に厳罰が科されている場合が多いらしい(山本は別のインタビューで「司法の世界では一般社会以上にノーマライゼーションが進んでいる」と皮肉を言っている)。
これはつまり「そういう受け入れ先の無い障害者は刑務所にでも放り込んで置け」とそういう判断を司法がしていると言うことだ、と山本は言う。
出鱈目な上に税金の無駄遣いでもある(受刑者一人あたりにかかる費用は270万円。対して障害基礎年金はたとえ1級でも年間受給額は99万円強である。シャバで生きていく方が金は掛からないのだ。それだけで生きていけるのか、という疑問は残るが・・・)。

他にも、行政と司法と医療がどれだけ障害者をスポイルしてきたかという事不幸の佃煮の様な例が嫌と言うほど描かれている(山本は、触法障害者の行く先を追った結果「ホームレス」「ヤクザの三下」「精神科の閉鎖病棟」「自殺者」「変死」のいずれかだった、と言う)。

犯罪は確かに良くないが、行政の歪みが犯罪を生み出しているのを無視して監視社会化を加速しているのって何かおかしかないか?マッチポンプって言わないか?そういうの。

こういう現実を無視して、自立支援法みたいなリアリティの欠片もない法律をさせる政府の倫理観って何だ?
国家主義的な輩は「キチガイやカタワやハクチは公の負担になるだけだから淘汰されるべきだ」みたいな事を言うが、だったら「障害者自立支援法」みたいな名称詐欺は止めて「障害者自殺支援法」とハッキリ言うべきだろ。
まあ、俺は例え障害者になっても自殺とかせんで、人を殺してでも生き残る所存。
とりあえず、アベはこの本読んどけ。