自転車/コジマ

朝から古本屋の店番。
原稿は全部上がったし、今日は気楽にクーラーの効いた店内でDVDでも観ていようと鼻歌混じりで出勤したのだが、丁度往路の途中辺りで自転車のチェーンが外れてしまった。
10分ぐらい格闘したのだが、外れたのが後輪のギアの方で、工具を使わないとちょっと直せそうにない。
出がけは鼻歌混じりだったのに、オイルと汗にまみれて古本屋に最寄りの自転車屋にほうほうの体でたどりついた。
川崎街道沿い、駅にほど近い場所にある老夫婦が経営している自転車屋で、これが三件茶屋フジヤマ並にいい加減なサイクルで店を開けたり閉めたりしているので今日もはたして開いているかどうか不安だったのだが、今日は運良く開いており、店の前で店主のじいさんがぼんやりお茶を飲んでいる。
すみません、チェーンが外れてしまったので直して欲しいのですが、と声を掛けると開口一番
「おじさんはねえ、最初に10年親方の所で修行をして、それから51年店をやっているんだよ。つまり、61年自転車屋をやっているんだ」
と来たもんだ。
いや、そんなん全然訊いて無いですよ。
嫌な予感がした。
早く店を開けなければいけないのに、なんだか凄く時間がかかりそうだ。
すみません、急いでいるんです。すぐ取りに来るので、預けていっても良いですか?と訊いてみたのだが
「いや、すぐ済むから待ってなさい」
と聞かない。
いや、それから40分位、じいさんが一方的に喋るのをずーっと横で聞いて、それに相づちを打ってましたよ。
曰く
「最近の人はドンキホーテとかで自転車を買っていていかん。あんな所で買った自転車は買って3日でパンク、いや15分でパンクしちゃうよ」
いやいや、そんなん売ったら大問題ですよ。
曰く
多摩川沿いのサイクリングロード、あれは俺が署名運動して作ったものなんだ。3日も店を休んだ。一日10万円売り上げがあるとして30万円も損をして頑張った」
おいおい、こんなチンケな店で一日10万も商売出来るわけねえだろ。フカシも大概にして下さい。っつーか署名運動たったの3日ですか?
曰く
「ここの歩道、空き缶とかゴミとか落ちてないでしょ?俺が皆拾ってるんだ」
そうか、ご苦労様です。
話題は色々あるのだが何しろ修理に時間が掛かる。一通り話し終わったらまた最初の
「おじさんはねえ、最初に10年親方の所で修行をして・・・」
から始まり。
おまけに途中でネジを無くして大騒ぎ(俺が見つけました。頼むよホント・・・)。
もしかしてボケがきているのかとも思ったが、修理代はきっちり2000円取られた。
店には45分遅刻。参った。
でも、さすがにこの道61年の名工?がたっぷり時間を掛けて修理(というか、シャーシの歪みとかチェーンのたるみとかも直して呉れたのでオーバーホールと言ってもいいかもしれない)してくれたおかげで、チェーンが外れる前より随分とペダルが軽くなった気がする。
結果オーライ。