その3/オノテツ

2時就寝、10時起床。
昨日の日記で一昨日の日記の続きを書いたが、今日はその続きである。


腹が減って意識が遠退く中、ふと顔を上げるとハタハタとはためくのぼり旗が見えた。
詳しくは覚えていないが、お食事がどうのこうのと書かれている。
建物の二階が食堂になっているらしく、その客寄せのためののぼりである。
だが、本当はもう時間が無かったのだ。
すぐに引き返し、どこかの公共図書館に飛び込んで目当ての資料を探し出し、コピーをとらなければならない。
そうしないと約束の時間に約束のブツを一式取り揃えて渡すことができないのだ。
しかし、徒労感と空腹感で思考がそこまで及ばなくなっていた。
まずはメシである。
その後のことは空腹を満たしてから考えることとしよう。
「よっこらせ」という呪文とともに重い腰を持ち上げ、スリラーのプロモーションビデオのようにゆらゆらと階段の方へ向かう。


階段の上る途中、ふと階下を見渡すと、のぼりの横に食堂の看板が置かれているのが目に留まった。
その看板は点灯式なのだが、どういうわけか電源コードは抜かれたままで、せっかくの明かりが点っていない。
それどころか、抜かれたコードがご丁寧にも看板本体に巻きつけられている。
「もしかして休み....」
図書館が休館なのだから、その可能性は十分あるだろう。
だが、口に出して言うと本当にその通りになってしまいそうで怖い。
もちろん一人だから口に出す必要はないのだが、思っただけでも実現しそうだから、実はそんなこと微塵も思っていないフリをして、素知らぬ顔で階段を上り続けた。
それで神さまが騙せるとは思えないが、きっとオレの気持ちはくんでくれるはずだ。
それより何より体が機関車のように重たくなっているから、引き返そうにも容易に止まれないのである。
勢いのままに頂上まで上り詰めるしかないのだ。


シュッシュッと肩で息をしながら二階の終着駅に辿り着くと、そこは無機質なテーブルと椅子が並ぶ何とも殺風景な空間であった。
案の定、人の気配がまったく無い。
「やっぱり休みか....」
ところが、天井の蛍光灯は弱々しくではあるが一応光っている。
食券の自動販売機も点灯している。
やっているのか、いないのか、傍から見ただけでは判断がつかないから、思い切ってドアを開け中に入ってみた。
すると調理場におばちゃんが二人いて、仲良くおしゃべりをしている。
「やってます?」
「あいよ」
やっているらしい。
ホッとして食券販売機へと向かい、迷うことなく「焼きうどん」のボタンを押す。
何となく、一番ハズレが無さそうな気がしたのだ。
食券販売機の横には業務用のカートが一台。
その上に、なぜか醤油の瓶が一つ置かれている。
食券と何か関係があるのだろうか。
ペッと醤油をつけてからおばちゃんに渡すシステムなのか。
よくわからなかったので、とりあえず素のままの食券をカウンターまで持って行くと、おばちゃんはそれを黙って受け取った。
そして奥でテグスネをひいて待っている相棒に向かって「焼きうどんッ!」と叫んだ。
調理場のエコーが効いたのか、その声は大地が割れるような荘厳な音色となって、誰もいない食堂中に響き渡った。


続きはまた明日。
ていうか、たいしたネタでもないのに一体いつまで引っ張るつもりなのか。