休日の憂鬱/オノテツ

4時就寝、11時起床。
珍しく何も予定がない一日。いわゆるひとつの休日である。


誰かがどこかで「休日は普段の日よりも楽しまなければならないから大変だ」と語っていたが、それはまったくその通りで、休日ほどプレッシャーがかかる日を他に知らない。
掃除や洗濯などやりたいことはいくらでもあるが、そんなことをしても普段と何ら変わりがないから、もっと休日らしいことをしなければモッタイナイと考え込んでしまう。
かと言って、映画を見たり買い物に行ったりするのも一般人の休日みたいで、どうせならもっとオレらしい休日の過ごし方はないものかと思い悩む。
そうこうするうちに日が暮れて、カラスが泣く頃には帰るどころかまだ家から一歩も外に出ていないという現実に直面し、カァーとため息をつくことになる。
結局パソコンを立ち上げ、エロサイトの旅になぞ出るのがオチだが、それでは情けないほどに日常茶飯事だから、ここは一念発起して悩殺の旅ならぬ納品の旅に出ることに決めた。
それってつまり仕事ジャン、と悪魔が耳元で囁くが、休日に仕事をするというのがオレならではのちょっと違った休日の過ごし方と言ってしまえばしまえるので、微妙な日本語とともに気分もまた微妙ではあるものの、とにかく電車に乗って出かけることにした。


そしてもう一つ、出かけるついでに取り掛かりたいことがあった。
今現在、迷宮怪のMM君からマンガを14冊、造形作家のIさんから小説その他の読み物を12冊お借りしているのだが、いい加減に読みなさいよ、減るもんじゃなし、と天使が胸元で囁くから、一念発起したついでにこっちの方面でも一念発起して、あわせて二念、いよいよ着手して差し上げようと思うのだ。
しかし、これだけ借りると一体全体どれから読んでいいのか皆目見当がつかない。
自分では決められないから、今朝方の夢のお告げに従って読み進めることにしたのだが、そういう日に限って大金を手に美女に囲まれている夢など見てしまい、お告げどころの騒ぎではない。
仕方がないから目をつぶって一冊だけ手に取り、それを持って納品に出かけた。
店に着き、あやうく持っていた本をそのまま納品しそうになったが、持ち前の危機回避能力でその場を切り抜け、コーヒー屋に入って一服つきながら、いよいよ本を開いてみる。
栄えある第一冊目に選ばれたのはウクライナの新進作家アンドレイ・クルコフがロシア語で綴った『ペンギンの憂鬱』で、憂鬱なペンギンの物語である。
ロシアのペンギンは何語で話すのか興味深かったが、鬱だから一言も発することがなく、残念ながら話しているのは人間だけだ。
コーヒーをすすりながらズルズルと読んでいると、隣の席ではサングラスをかけた美女とサラリーマン風の兄ちゃんが韓国語で何やら語り合っている。
はたして美女と話すサラリーマンは仕事をしているのか、していないのか。
美女と仕事の話をしているのか、あるいは美女と話すのが仕事なのか。
オレは本を読む仕事をしていながら、休日にも本を読んでいる。
本じゃなくて美女にしておけばよかった、と心の奥底で後悔した。