ローカル線讃歌/オノテツ

4時就寝、11時起床。
京都行きを諦め、家でコジマ君の青春18きっぷの旅を応援することにした。
18きっぷといえばローカル線でノンビリ旅するイメージだが、乗り継ぎに余裕が無いときなど階段を駆け下りなければならず、あれはあれでけっこう忙しない。
それにしても気がかりなのは、最近ボックスシートの車両が少なくなっていることである。
電車に乗っている間くらいはノンビリしたいのに、しばしば通勤電車と変わらないロングシートの車両がやって来てガッカリさせられる。
やはり電車で遠出するときは、靴を脱いで前の座席に足を投げ出し、膝の上で弁当を広げたいものだ。
そして旨くないお茶をすすりながら、短めの割り箸で前かがみになって食べるのがいい。
昨今はお座敷列車なるものが流行っているが、脱いだ靴をビニール袋に入れて座敷に上がるようでは、居酒屋みたいでかえって興がさめる。
ボックスシートの半分隔離された感じと中途半端な座り心地こそが、長旅にはちょうどいいのである。


いつだったか、ガラガラの電車で四人用のボックス席を一人占めしていたら、ベッタンベッタンと引きずるような足音が聞こえてきて、見るとブカブカのジャージを履いた人が、こちらに向かって歩いてくる。
地元のオッサンが乗ってきたのかと思いきや、ジャージの上には制服のミニスカートが巻き付けられていて、視線を少し上にずらすと、オッサンどころかなかなか色っぽい顔立ちの女子高生であった。
彼女は隣のボックスシートにどっかりと腰をおろし、ペシャンコの鞄の口を開いて中をあさり出した。
そして、おもむろに鏡を取り出し、お茶を乗せる台の上に置いて、オレに背を向けて化粧を始めた。
一心不乱に眉を描く女子高生。
その様子を背後からチラチラと窺っていたが、彼女のいる一角だけまるで別世界で、ゆったりと時が流れているように感じられる。
逆にこちらはプライベートルームを覗き見している気分で、胸の鼓動が徐々に早くなる。


やがて目的の駅に近づいたのか、化粧道具と鏡が鞄の中にしまわれた。
そして電車の速度が落ち始めたとき、彼女は座ったままで両足を高く上げ、すっとジャージを下ろしてミニスカートだけになった。
それは手品のような手際のよさで、オレは呆気にとられながら、突然あらわになった太モモを凝視した。
すると彼女も視線に気付いたようで、はじめてこちらを見て、キレイに整えられた眉を吊り上げてキッと睨んだのである。
目元には薄くシャドーが入り、唇がピンクに輝いている。
立ち上がると、スカートの丈がとびきり短い。
指名ナンバーワンの風俗嬢を想起させるほど妖艶な姿を目の当たりにして、オレの心臓の動きは一段と早まり、手元にあった不味いお茶を一気に飲み干した。


ローカル線の旅がノンビリできるとは限らないのである。