気が引ける/オノテツ

2時就寝、8時起床。
送別会で別れの挨拶をした翌日に、いつもと変わらぬ顔で仕事に行くのは気が引ける。
だからちょっぴり髪の毛を伸ばして会社に行った。
ところが驚いたことに、皆もちょっぴり髪を伸ばしている。
どうやら気が引けたのはオレだけじゃなかったらしい。


しかしそれより驚かされたのは、今朝の3時4時まで飲んだくれてた人たちが、一人も欠けることなく定時には席につき、キーボードに向かってカタカタやっていることだ。
深夜の新宿二丁目で、
「んじゃカラオケ行くひと〜、手ぇをあぁげてぇ〜、うぃ〜っス」
などと叫んでいた人が、朝から何食わぬ顔で原稿に目を通しているのだから、いやはや習慣というのはおそろしい。


オレはというと、昨晩は二次会まででとっととシツレイして、終電に乗って家に帰った。
しかし咳がひどくて満足に眠れなかったから、今日は朝一番で医者に行き、クスリをもらってから出社した。
つまり、先抜けしたくせに出勤がビリだったわけである。
ますます気が引けたが、それはすなわち退職という選択が間違っていなかったことを自ら証明してみせたようなもので、多少は胸を張ってもよかろう。
とはいえ、今にもゲロを吐きそうな青白い顔の人々に囲まれて一人で胸を張り続けるのも気が引けるから、これ見よがしにクスリの束を机上に並べては、ゴホゴホと病弱な人のフリをしてみせる。
そのへんのソツのなさだけは結構サラリーマン向きな気がして、それはそれでまた気が引ける。


明日は燃えないゴミの日。