男泣き/コジマ

立川談志師匠とその若手のお弟子さん達の新年会に同席した。
談志師匠はとにかく説教臭い人で、酒宴の間中、一門の人たちにクドクドと説教をしていて、はたで聞いていてくさくさした。
そしてこういう席では勘定は師匠持ちかと思ったのだが、意外なことに割り勘なのだった。
汚い割りには結構イイ値段の飲み屋で、一人頭5000円もした。
まあ俺は部外者だし働いてもいるので大丈夫なのだが、前座とか二つ目の若手なんかだと結構大変な値段だ(昔知人の春風亭門下の前座が居たのだが、基本的にバイトをするヒマも無いので借金生活だった)。
皆金も無いのでそこでお開きになり、一同解散と言う感じになったのだが、師匠が
「そう言えば、お前にはまだ説教してなかったな。ちょっともう一軒つき合え」
と言うので我々だけ二次会へ。
「お前には夢がない」だの「考え方がせこいから大成しない」だの結構凹む事を言われ、まったく酔えない。
そして、勘定いざの段になったのだが、また割り勘かと思い俺が財布を出しても師匠が財布を出す気配が無い。
「ありがたいお話をしてやったんだから、ここはお前が払うのが筋だろ」
と言う。
お店の人にいくらか訊いたところ1万3500円だと言う。
高いな、と思ったが、今日は2万円持ってきていてさっきの店で払ったのは5000円なので、払えない額では無い。
さんざ説教をされた上にこの仕打ちか、と思ったが、早く帰りたかったのでさっさと払って退散しようと思い、財布のなかから札を出したのだが、なにか変だ。
さっきの店で釣りとしてもらったはずの5000円札が無い。
いや、5000円札っぽい物はあるのだが、色とかデザインは似ているのだが5000円札では無い別の何かだ。
一人でいやな汗をかいていると、ひょいと俺の手元をのぞきこんだ師匠が
「ああ、これは中国の宝くじだな。似てるんだ、これが5000円札と。お前ぼーっとしてるから騙されるんだよ、ははは」
などと言う。
情けない気持ちでいっぱいだったが、とにかくこれでは払えない。
「すみません師匠、今1万円しか無いんで、3500円だけ出してもらえませんか」
とお願いしたのだが
「馬鹿野郎、俺は財布なんか持ち歩かねえんだよ。お前1万3500円ぽっちも持ってねえのか。大体なあ、男は死に金って言って、年齢×1000円ぐらいはいつでも財布に入れておかなけりゃいけねえんだ。俺ぁ一流芸人だからいいが、お前みたいな才能もなんにも無い馬鹿が、それぐらい財布に入れておかなくてどうすんだ」
と怒られる始末。
ああ、俺はぜんぜんダメだ。
なんだか情けなくなって、人目もはばからず男泣きに泣いた。
そういえば、ビックEに「男泣き」って曲が有ったよなあ。JBの替え歌だったが。
「男が泣くとき、爪先立ちで」
と言う歌詞だったが、たしかに俺は今、爪先立ちだ。
・・・・



などと考えているところで目が覚めた。
夢なんで、実際の談志師匠および立川一門とは関係有りません。
でも、今後もし立川一門の新年会に誘わる事があっても、たぶん行かないと思う。まあ接点無いんだけどさ。





妹親子の風邪は全快した。
ご心配をおかけしました。
そして、全快したとたん、京都に帰っていった。
お前ら、何しに来たんだ。