至らなさ/オノテツ

6月に入った途端に仕事が山のように押し寄せてきて、さすがに山が押し寄せてきたら人間なんかペチャンコにつぶされてしまうわけだが、まさにペチャンコになるほどに仕事が大量に来ていて、いくら仕事が趣味だと豪語するオレであっても、それはそれでなかなか忙しいのである。
ところが、ペチャンコになりそうなときにかぎって、仕事の合間についつい本屋に入って、本なんぞを買ってしまったりする。
本を読むヒマなんてどこをどうほじくりかえしても見つからないし、ドリームタイムを使ってインチキして時間を増やしても、それでもまだ足りないほどなのに、それなのにヒマツブシの道具を買ってしまうのだ。
この理不尽な行動もまた、忙しさのせいだろうか。


しかも家には仕事絡みの原稿やら、出版社で働く知人が万引きしてきてくれた本やら雑誌やらがあふれかえっていて、読むべきものがそれこそ山のように積み上げられている。
たとえ今の忙しさがひとやま越えても、今日買った本を読む日ははるか先になるだろう。
そして、きっとその前に次の仕事の山が押し寄せてきて、ペチャンコになっていることだろう。
そのあげく、またしても読むあてのない本を買ってしまうのだろう。


読むあてのない本を買うわけだから、本を買うときはいつも、読んでもわからないような難しい本を買うことにしている。
ちなみに今日買った本は、ヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』。
いくら「天才少年現る」と自分で言い続けて、最後の最後まで現れなかった引っ込み思案なオレでも、とうてい理解できないほどに難解な内容である。
だからこそ買ったのだ。
これなら読まなくても、どうせ読んでもわからないという立派な言い訳がたつ。
だが、かつての『論理哲学論考』とは違い、新たに「詩のように翻訳された」という新訳版を買ってしまったところに、ジャッカンの負い目があるのも事実だ。
これならちょっとは理解できるかもと期待するあたりに、オレの至らなさが露呈している。


そんな気弱なときにはライブのひとつでもやって、強いオレさまを取り戻すのが良い。
ちょうどいいグッドタイミングで、今週の木曜日にライブがあるではないか。
場所は忙しいオレにふさわしい、ノンビリした商店街がシブイ魅力を放つ街、沼袋。
忙しさにかまけて新曲も一曲作った。
泣きながら作ったからメロディがやけに哀しいが、楽しいと思って聴けば楽しい気分にもなれる。
その程度の拙曲だが、人の精神なんてそんなもんだともいえる。
何はともあれ、忙しいなどと言い訳をせずに、ぜひ観に来てもらいたい。

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Jazz Rock Week @ Organ Jazz Club
6月14日(木)