嫌がらせ勝負/コジマ

母の日や父の日というのは、年に一度の親孝行のチャンスであると同時に、嫌がらせのチャンスでもある。
「今までの感謝の気持ちを込めて・・・」とか言われて物を贈られると、それがどんなに意味不明の下らん品物でも、捨てられないのが人の親というものなのであろう。

そう言うわけで、母には民芸調なのに気色悪いガラの入った巾着袋、父には植木用剪定ばさみ(ちなみに父に園芸の趣味はない)等と毎年手を変え品を変え嫌がらせの品(言っておくが、完全に嫌がらせに徹するのではなく、半分程度は「たまの親孝行」的なニュアンスを加えておくのがコツである)を贈ってきたのであるが、今年は母の日前後は仕事か何かで動けなかったせいもあり、コレという物が見つからなかった。
残念である。
なので「父の日と一緒に何か贈るけん」と一方的に宣言したのだが、これが怪我の功名で、ペアという選択肢を加えるとさらに嫌がらせの手が増えてくる事に気が付いた。
うちの両親には、ペアで何かそろえるという趣味はないのだ。
しかし、ペアルックとか贈ると「親孝行」のパーセンテージがゼロに近くなり、純粋な嫌がらせになってしまいあまりよろしくない。
そこで考えたのがペアの食器である。
夫婦茶碗とか。
捨てるに捨てられず、ついついズルズルと日常で使ってしまいそうなレベルの物。

その様な物を先週デパートで物色していて、見つけたのが江戸切り子のペアの一口ビールグラスであった。
一口ビールグラス、こんなに意味のない物がこの世にあろうとは。
ビールというのはやはり喉越しが第一であり、ちびちび飲む様な飲み方には適していない(第一、その様な呑み方はビールに対して失礼千万だと思う)。
一口ビールグラスというのはぐい飲みより多少容量が大きい程度の小さなグラスであり、まさにビールだと一口分しか入らない。
一口分だけ注いでは一息で飲み干し、飲み干してはまた一口分だけ注ぐ。
そんな馬鹿なビールの飲み方が存在したとはしらなんだ。

「これや!これしか無いわ!!」
何故か関西弁(サカキバクザン風だった様な気がする)で力強くつぶやき、すぐに包んで貰い、父の日(というか父母の日?)に間に合うように送りつけた。
してやったり。

そのまま忘れていたのだが、今日母からクール宅急便が届いた。
開けてみると、まず目に付いたのは、母からのお礼状であった。
要約するとそれには「最近、じいちゃんのことでちょっと凹んでいたので(今祖父は入院中であり、高齢のせいもありあまり良い状態では無い)思わぬプレゼントを貰って大変嬉しく思っております。お父さんも大変喜んおり、早速晩酌の時に使ってます。ところであなたも一人暮らしになって半年以上たちますが、食事などキチンと出来ているのでしょうか。お父さんの株の関係で、冷凍食品などを沢山貰ったので贈ります」と書いてあり、たしかに同封されているのは大量の冷凍食品であった。
ああ、有り難きは母の愛也。
やった、食費浮いた。

だがしかし。問題は量だ。
冷凍庫に全部はいるどころか、冷蔵庫もパンパンの量である。
すぐ食べはじめないと半分位腐らせてしまう、と思い、昼飯時に早速一部調理して食べたのだが、これがえらいこと不味いのだ。
一番不味いのは、フレンチドックの皮、あれの中にチーズが入っている、と言う、何とも言いようがない不気味な食い物。
羊の肉を春巻きの皮状の物でくるんだ物も有り、これも一見美味そうだが、脂っこい上にかなり臭く(言っておくが、俺はマトンは嫌いではないのだ。それでもかなりキツイ臭いである)ゲロマズとは言わないまでもお世辞にも美味いとは言えない。
おまけに、両方食ったら胃がもたれて参った。
早速、母に電話。

「もしもし、俺俺、俺やけど」
「何ね、俺俺詐欺みたいな電話はしなさんな。ノリオね。何ね」
「ああゴメンゴメン。ええと、冷凍食品届いた。有り難う」
「ああそうね、家におるかどうか確認せんで送ったけん、ちょっと心配やったけど、よかったよかった」
「でさ、そっちではコレ食ってみた?」
「うちは年寄り二人やけん、そげな肉とか揚げ物とか食べんよ。お父さんが株買った会社から大量に送られてきたっちゃけど」
「頂き物にケチつけて悪いけど、これ美味しくないよ。っつーかスゲエ不味いよ」
「やっぱり・・・・・あたしもね、多分そげんやろうち思ったんよ」

もしもし、お母様?
今何とおっしゃいました?

畜生、まんまとしてやられた。
今年は完敗である。
まだフレンチドック&チーズも、羊肉も4パックづつ残っているのだが、あまり食べる気がしない。
でも、食べ物を捨てきれない質なので、多分全部頑張って食ってしまうと思う。
でも他にはまともな物も入っていて、牛の内臓各種の冷凍は結構嬉しい。
これも「完全に嫌がらせにならない」為の作戦なのかもしれないが。
これで近々我が家で「真夏のトンチャン大会」でもやろうと思うので、希望者は御連絡を。

最後に母に一言言っておいた。
「あのさ、父ちゃんに『そげん不味い物作りよる会社の株とか買っても絶対もうからんけん、やめとき』って言うとって」。