プルサーマル/コジマ

土曜日。

ドラムにyさん、6弦ベースにk君、そしてc/k/俺のブッチャー&ボンドヅの残党という布陣による新しいバンドで、スタジオに入った。

ブッチャー&ボンドヅと言うのは、15〜6年前に学生時代の仲間などと結成したハードコア(というか何と言うか、適当に無理矢理やってたらこんなん出来たんですけど、って感じの)バンドだ。
一時期は月一程度のペースで高円寺や新宿辺りでライブをやっていたのだが、メンバーが社会人になると、そのうち仕事が忙しくなるのやら子供が出来るのやらが出てくる。
そのようにして「遊んでくれなくなる奴」がメンバーに増えてきたので、ここ数年は「飲み会」以外の活動はやっていなかった。
元々この新バンド構想はカンガワの音頭取りによる「yさんをドラムに迎えてブッチャー&ボンドヅをリニューアルする」というものであり、昨年の10/29夜にスタジオを押さえる所までいっていたのだが、直前の19日にyさんを誘った張本人が死んでしまい、新ブッチャー&ボンドヅはそのまま流産。リニューアルの音頭取りが居なり、その後俺も正直言ってしばらくギターを弾く気にならず(俺とカンガワの関係は「恋人」「家族」としてより「バンド仲間」としてのほうがずっとずっと長かったのだ。「なにをどうしていいかわからない」というのは、つまりこういう事なのだな、と思った)、計画は頓挫したまま放っておかれた。
だがしかし、売れるどころか誰も誉めてさえくれない事を何年も続ける事が可能だ、というのはつまりそれが「病気」だからである。
多分、音楽活動や絵を描くことは「病気」であり、そして「病気」が緩解したり完治したりするのは「治療する」というポジティブな行為が必要不可欠で、「どうしたらいいかわからない」というようなネガティブさによっては「治る」事はあり得ない。
仲間と飲んでいるうちに「バンドやろうぜ」とか言い出すのも自然な事だ。
何回かミーティング(飲み会とも言う)を続けるうち「ブッチャー&ボンドヅの残骸からなにかを『プルサーマル』する」というコンセプトも決まった(っつーか只単に『プルサーマル』という語感が気に入っただけなんだけどさ)。

まあそのような経緯のバンドで、再起動するに当たってある種の感慨はあったのだが、実際にスタジオに入ったら
「そこは第二次性徴を迎えた男子中学生の乳首の様に敏感な感じ」
とか
「そこは雨にそぼ濡れた子犬の匂いがする赤ワインの様なコード感で」
とか
松田聖子に『ちゃん』を付ける必要無し」
とか
「そこは例えば少女漫画で1頁目では『いっけな〜い、遅刻しちゃう!』と言ってトーストくわえて女子高生が焦りながら走ってるんだけど、頁めくったらいきなりガシガシSEXしているとか、そういう感じの展開で」
「馬鹿野郎!経過が気になるだろ!」
「あっ、もしかして次の頁ではトーストじゃなくて別のモノくわえてるって事?」
「YES!」
とか
「そこはアトピー性皮膚炎みたいな感じ」
とか
「さっきの男子中学生の乳首は一度忘れて、やっぱり第二次性徴を迎えた女子中学生の乳首みたいな感じで・・」
「女子は成長が早いから、第二次性徴は小学生の場合もあるよ」
「それはマズいだろ・・」
とか、その様な難解かつ神秘的な言葉のやりとりで情緒も糞も無いのだった。
ほら、バンドマンで有る前に神秘主義者だからさ、俺達。あと譜面の読み書きが出来ないのもネックだ。
多分yさんは面食らったと思うが(k君とも、結構長いつきあいながら一緒にスタジオに入るのは初めてなのだが、散々一緒に飲んではきたので大体こんなもんだろう位のことはわかっていたと思う)俺達はこんなやり方しか出来ません。

ちなみに、バンド名はまだ無い。
そのうち、何か難解かつ神秘的な名前が付くと思う。
  

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  来週の当番は寒川さんです。